POS端末向け基板カスタム電源の開発事例|現行電源との互換設計・PFC・瞬停シーケンス
POS端末向け基板カスタム電源のフルカスタム開発事例。他社製の現行基板電源からの置き換えにあたり、機械・電気・接続・動作の各面での互換性確保を前提に仕様を確定しました。PFC搭載、プリンタの繰り返しピーク負荷への耐量、瞬時停電時の段階的な停止シーケンス、防湿剤塗布を許容する基板設計まで、擦り合わせが必要になった論点を整理してご紹介します。
現行の基板電源を、セット側を変えずに置き換えたい――カスタム電源をご検討の設計ご担当者様へ
すでに市場に出ている装置の電源を切り替える場合、難しいのは代わりの電源を探すことではありません。「今と同じように動くこと」をどう定義するかという点です。
出力電圧と電流が合っていれば済む、という話にはなりません。コネクタのピン配列、制御信号のやり取り、瞬時停電が起きたときの停止手順、ピーク負荷の耐量。どれか一つでも現行品と違えば、セット側のソフトや基板に手を入れることになります。現行品が問題なく流れている以上、変更を決めた側が責任を負うことになるため、切り替えの判断は先送りされがちです。
本事例は、店舗端末(POS端末)向けのカスタム電源(基板タイプのスイッチング電源)を他社製の現行品から切り替えるにあたり、現行電源との互換性を前提条件として仕様を詰めた開発事例です。装置は屋外設置の筐体に組み込まれ、電源は筐体内部に実装されます。以下、擦り合わせが必要になった論点に沿ってご説明します。
カスタム電源は、お客様の装置に合わせて形状・容量・特性を専用に設計する電源です。標準品の改造で足りるのか、新規に起こす必要があるのか。その線引きは、互換性をどこまで求めるかによって決まります。
① 「現行品と互換」の中身を、着手前に文書化する
お客様からの前提条件は「現行電源との互換性が必須」という一点でした。この一言をそのまま受け取ると、設計の後半で認識のずれが表面化します。当社では見積の前段階で、互換の対象を次の四つに分けて確認しています。
| 互換の対象 | 確認した内容 |
|---|---|
| 機械的互換 | 基板の外形、取付穴の位置、部品の高さ制限、コネクタの配置面 |
| 電気的互換 | 出力電圧の系統数と定格、ピーク電流の耐量、力率改善(PFC)回路の要否 |
| 接続互換 | コネクタの型番とピンアサイン、代替品(相当品)を許容する範囲 |
| 動作互換 | 起動・停止の順序、制御信号の論理と電圧、異常時のふるまい |
本件では、AC入力・DC出力・ファン用の各コネクタについて、現行品の型番とピンアサインを一覧でご提示いただきました。あわせて「各コネクタは相当品での対応で構わない」との判断もいただいています。部品の供給が不安定な時期に、型番を一社に固定したまま設計を進めると、調達の都合だけで日程が動きます。相当品を許容する範囲をあらかじめ決めておくことは、量産開始後の供給リスクを下げる意味でも有効です。
見落とされやすい点:コネクタの実装面(表面に集約するか、両面に振り分けるか)は、電気的な仕様書に書かれないことがあります。しかしケーブルの取り回しと組立工程に直結するため、後から変更すると基板レイアウトのやり直しになります。配置の制約は初回のヒアリングで確認しておく項目です。
② 停止シーケンスの取り決め――瞬時停電にどう応答させるか
本件でもっとも詰める必要があったのが、AC入力が途切れたときの動作でした。決済や記録を扱う装置では、電源が落ちること自体よりも、セット側が落ちることを事前に知らされないことが問題になります。
お客様から指定されたのは、次のような段階的な動作です。
| 段階 | 電源ユニットに求められる動作 |
|---|---|
| 短時間の瞬停 | 電源ユニット内部で吸収し、出力電圧を維持。異常通知の信号も出さない(セット側に気づかせない) |
| 規定時間を超えた停電 | 電源断の予告信号を出力し、セット側にバッテリー駆動への切り替えを促す |
| 予告後の猶予時間 | 切り替えが完了するまでの一定時間、出力電圧を維持し続ける |
| 猶予時間の経過後 | 全出力を停止 |
この「吸収する時間」と「予告してから出力を維持する時間」は、電源側の保持容量(ホールドアップ)の設計に直結します。一次側のコンデンサ容量、二次側の負荷条件、検出回路の応答時間をあわせて成立させる必要があるため、値が数ミリ秒動くだけで部品構成が変わります。仕様書の一行が原価と基板面積の両方に効いてくる項目です。
起動側についても同様に、リモート制御信号の扱いを取り決めました。AC投入と同時に立ち上げる系統と、セット側からの制御信号を受けてから立ち上げる系統を分け、制御信号が供給されない限り主出力は出さない構成としています。信号の電圧レベルについては、将来の後方互換を考慮して余裕を持たせた入力仕様としました。
確認しておきたい項目:制御信号は「どちらから出力するか(電源側かセット側か)」「アクティブがHighかLowか」「電圧レベルはいくつか」の三点がそろって初めて仕様になります。本件では冷却ファンの回転検知信号のように、ファンの機種選定が未確定なため論理が決まっていない信号もありました。この場合は、どちらの論理にも対応できる回路構成としておくか、確定時期を日程に織り込んでおくかを、着手前に決めておきます。
③ ピーク電流は「最大値」ではなく「波形」で決める
POS端末にはレシートプリンタが搭載されます。印字のたびにサーマルヘッドやモーターが電流を引くため、平均消費電力から想定される値をはるかに超えるピークが、短い周期で繰り返し発生します。
本件でお客様からご提供いただいたのは、数値ではなく実機のプリンタで測定した電流波形でした。ピーク値に加えて、そのピークがどの程度の比率(Duty)で継続するかが読み取れます。過電流保護をどこで働かせるかは、この繰り返し条件を含めて決める必要があります。
ピーク値だけを見て保護点を設定すると、二つの失敗が起こります。保護点を低く取れば通常の印字動作で電源が落ち、高く取れば本来保護すべき異常を見逃します。当社では、現行電源の保護動作点と実測波形の両方を基準として、同等のDuty・ピークを持つ過電流に耐える設定としました。
なお当社は、こうした繰り返しピーク負荷に対応した電源を標準ラインアップとしても揃えています。フルカスタムの場合でも、標準品で蓄積した回路設計と評価の知見をそのまま活かせるため、ゼロから検討を始める場合と比べて設計の確度を高めることができます。
④ 実装環境の条件――防湿剤の塗布と、冷却方式の未確定
要求仕様には「屋外設置」と記載されていました。基板電源そのものに防水・防塵を求めるのか、筐体側で守るのかで、設計は大きく変わります。確認したところ、防水・防塵は筐体側で確保する方針であり、電源は筐体内部に実装する基板単体でよい、との回答でした。
ただしここで、実運用を踏まえた条件が加わりました。基板表面に防湿剤(コーティング材)を塗布する可能性があるため、その阻害要因を設計段階で外しておいてほしいというものです。屋外設置の装置では、筐体で対策していても結果的に電源部分だけ防湿処理を追加する運用になることがある、という市場経験に基づくご要望でした。
防湿剤の塗布を前提とする場合、可動部を持つ部品や調整用の半固定抵抗、放熱経路の確保など、あらかじめ配慮しておくべき点があります。量産開始後に塗布が決まると、部品の選定からやり直しになりかねません。「塗るかもしれない」という段階で共有いただけたことが、後戻りを防ぐうえで有効でした。
冷却についても、装置側でファンの搭載有無を検討中という状況でした。このためお客様からは、ファンなしでも成立する熱設計とすることを条件としていただいています。強制空冷を前提に部品配置を最適化してしまうと、ファンなしの構成に変わった時点で温度余裕が不足します。冷却方式が未確定の段階では、厳しい側の条件で設計しておく判断が必要です。
⑤ 日程と初期費用の考え方
カスタム電源の開発は、試作を一度で終える前提では日程を組み立てられません。当社では次の段階を踏んで進めます。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| EVT(設計検証) | 回路図・基板レイアウト、トランス手配、初回試作、電気特性とEMIの調整 |
| DVT(設計検証・二次) | レイアウト修正、二次試作、再評価、技術報告 |
| お客様サンプル承認 | サンプル製作・提出、評価結果に基づく修正、設計開発審査 |
| PVT(量産検証) | 量産条件での試作、社内検証試験 |
| 構造設計・金型 | 構造図・禁止領域図・外形図の作成、金型製作、構造検証、品質保証部門による検証 |
お客様に日程をご提示する際は、開発完了までの期間だけでなく、サンプルをお渡しできる時期と部材の手配を開始できる時期を分けてお伝えしています。量産開始日から逆算したとき、実際に効いてくるのは後者だからです。部材の調達期間が読めていれば、どの段階で内示をいただければ間に合うかを事前に設計できます。
初期費用については、基板の型・フィルム・冶具など、開発に必要と想定される費用を含めた形でご提示しています。項目を後から積み上げる方式では、社内稟議の途中で金額が動き、判断そのものが止まってしまうためです。開発の途中で追加が必要になった場合は、その時点で個別にご相談する運用としています。
為替の扱いについて:複数の調達先を比較検討される場合、見積の通貨が円と外貨で混在すると、比較の基準がそろいません。当社では、ご要望に応じて外貨建てでのご提示にも対応しています。比較検討の段階でご相談ください。
開発事例のまとめ
| 用途 | 店舗端末(POS端末)向け 基板タイプ スイッチング電源 |
| 対応区分 | フルカスタム電源(他社製の現行電源からの置き換え) |
| 前提条件 | 現行電源との互換性の確保(機械・電気・接続・動作) |
| 主な要求仕様 | 複数系統出力、力率改善(PFC)回路の搭載、繰り返しピーク負荷への耐量、瞬停時の段階的な停止シーケンス、リモート制御信号による出力制御、冷却ファンの回転検知入力 |
| 実装条件 | 屋外設置筐体の内部に実装、防湿剤の塗布を許容する設計、ファンなしでも成立する熱設計、コネクタは表面に集約 |
| 部品調達 | 主要コネクタは相当品での対応を許容 |
| 開発工程 | EVT・DVT・お客様サンプル承認・PVT・構造設計/金型・検証 |
同じようなお悩みはありませんか
| 現行の基板電源を、セット側の設計を変えずに置き換えたい |
| プリンタやモーターの繰り返しピーク負荷で、電源が落ちてしまう |
| 瞬時停電時の通知や停止の順序を、装置側の仕様に合わせたい |
| 現行電源のメーカーが対応を終了し、代替品が見つからない |
| コネクタの調達が不安定で、相当品への切り替えを含めて相談したい |
| 標準品で対応できるのか、カスタム電源が必要なのか判断がつかない |
| 特注の電源を小ロットから引き受けてくれるメーカーを探している |
当社は1989年の創業以来、ACアダプター・スイッチング電源のメーカーとして、設計から製造、量産後のアフターサポートまでを自社で担ってきました。カスタム電源については、出力3Wから1.5kWまで、小ロットからのご相談に対応しています。基板タイプのオープンフレーム電源も標準ラインアップとして揃えているため、標準品の改造で対応できる範囲か、新規設計が必要かの見極めからお手伝いできます。
仕様がお決まりでない段階でも、現行品の資料をお預かりできれば、互換性の論点を整理してご提案いたします。
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※本事例はお客様の許諾範囲で掲載しています。企業名・製品名・型番・数量・価格・具体的な数値仕様は非公開としています。
※記載の内容は検討時点のものであり、実際の仕様・日程は案件ごとに異なります。