医療用ACアダプターと一般用の違い
医療用ACアダプターと一般用のACアダプターは何が違うのか。適用される安全規格、装着部の分類、絶縁距離、漏れ電流の許容値の違いを、電源メーカーの視点から解説します。
「医療用のACアダプターというものがあるが、普通のACアダプターと何が違うのか」。当社では、このご質問を数多くいただきます。医療機器を開発されている企業からだけでなく、医療とは関係のない機器を手がけている企業からも、よくお尋ねいただく内容です。
結論から申し上げると、両者は「同じ製品の高級版と普及版」という関係ではありません。適用される安全規格が異なり、その結果として設計そのものが変わります。以下、順に解説します。
適用される安全規格が異なります
ACアダプターに適用される安全規格は、それを使用する機器の用途によって決まります。
| 機器の用途 | 適用される安全規格 |
|---|---|
| 情報処理機器・オーディオ機器 | IEC 62368-1 |
| 医療機器(医用電気機器) | IEC 60601-1 |
このほか、家庭用機器や測定・制御用の機器にも、それぞれ用途に応じた安全規格が適用されます。また、製品を販売する国や地域によっても、必要となる規格や認証は変わります。
IEC 60601-1について詳しくは、医療規格IEC60601-1とは?をご覧ください。
なぜ医療用の電源は要求が厳しいのか
電気製品で最も注意すべき事故は感電です。感電による被害の大きさは、身体を流れる電流の経路と大きさによって変わります。心臓に直接わずかな電流が流れただけでも、生命に関わる事態になりえます。
そして、医用電気機器に接続されている患者は、一般の機器の使用者とは置かれている状況が異なります。
- 体調不良や麻酔の影響により、危険を察知できない場合がある
- 感電しても、すぐに身体を離すことができない場合がある
- 電気回路が、皮膚との接触や体内への挿入によって人体に接触する可能性がある
- 複数の機器が、同時に一人の患者へ接続されることがある
医療機器用の電源に厳しい要求が課されているのは、こうした前提があるためです。規格が求めているのは、単に高い数値をクリアすることではなく、患者が自力で身を守れない状況を想定した設計です。
装着部(Applied Part)の分類
IEC 60601-1では、機器が患者とどのように接触するかによって、装着部を次の3つに分類しています。この分類が、電源に求められる保護のレベルを決める出発点になります。
| 分類 | 患者との関係 | 機器の例 |
|---|---|---|
| B形 | 患者と電気的に接触しない、または接触が限られる機器 | 病院用ベッド、MRI装置、手術用照明 |
| BF形 (ボディフローティング) |
患者と電気的に接触するが、心臓には接触しない機器 | 超音波診断装置、血圧計、心電計 |
| CF形 (カーディアックフローティング) |
患者の心臓に直接接触する可能性がある機器 | 心臓カテーテル、ペースメーカー、除細動器 |
なお、機器が患者の近く(患者近辺)に置かれる場合にも、規格上の要求が生じます。患者に直接つながっていない機器であっても、確認が必要です。
保護手段(MOPP・MOOP)と絶縁の違い
MOPは、危険な電圧(交流42.4Vピーク、実効値では約30V、または直流60Vを超えるもの)に人が触れることを防ぐための保護手段です。IEC 60601-1の第3版では、これが「患者を保護する手段(MOPP)」と「操作者を保護する手段(MOOP)」に区分されました。操作者は健康な人であり、機器の扱いについて訓練を受けていることが前提となるため、患者に対する要求のほうが厳しく定められています。
どちらを採用するかを決めるのは、機器の製造者です。患者が機器に触れる可能性があるかどうかを踏まえて判断します。患者が機器に一切触れない体外診断機器などは、MOOPのみで区分されることが多くあります。
保護手段の違いは、絶縁の耐電圧と距離に表れます。医用電気機器では、二重絶縁または強化絶縁による2×MOOPまたは2×MOPPが要求されます。
| 絶縁 | 空間距離 | 沿面距離 | 試験電圧 |
|---|---|---|---|
| 基礎絶縁(1×MOOP) | 2.0mm | 2.5mm | 1,500VAC |
| 二重・強化絶縁(2×MOOP) | 4.0mm | 5.0mm | 3,000VAC |
| 基礎絶縁(1×MOPP) | 2.5mm | 4.0mm | 1,500VAC |
| 二重・強化絶縁(2×MOPP) | 5.0mm | 8.0mm | 4,000VAC |
※上記は代表的な値です。実際に必要な距離は固定ではなく、使用電圧、絶縁材料のグループ(CTI)、汚染度、過電圧カテゴリなどの条件によって変わります。
MOPの概念について詳しくは、医療規格における操作者と患者の区分けについて、MOPの概念とはをご覧ください。
絶縁距離は、電源の設計そのものを変えます
空間距離とは2つの導電部の間の空間での最短距離、沿面距離とは2つの導電部の間の絶縁物の表面に沿った最短距離のことです。
同じ「二重・強化絶縁」であっても、操作者保護(2×MOOP)と患者保護(2×MOPP)では、試験電圧で3,000VACと4,000VAC、沿面距離で5.0mmと8.0mmという差があります。この差は、単に絶縁材料を厚くすれば済むという話ではありません。
求められる距離が大きくなるほど、絶縁境界の近くを通る配線、トランスのボビン構造、部品の配置を、あらためて設計し直す必要が出てきます。必要な距離を確保しながら、製品として成り立つ大きさに収めるためです。医療用の電源が一般用より大きくなりやすいのは、この距離を確保しているためです。
なお、すでにある電源に後からDC/DCコンバーターを追加し、絶縁層を確保するという方法もあります。保護手段を追加する手段としては一般的ですが、効率やコストの面で不利になる場合があります。
漏れ電流の許容値の違い
漏れ電流とは、絶縁材料の表面や内部を通って流れる、機器の機能とは関係のない電流です。医用電気機器では、正常な状態だけでなく、部品が1つ故障した状態(単一故障状態)においても、漏れ電流が許容範囲に収まるように設計する必要があります。
許容値は、装着部の分類によって変わります。
| 漏れ電流の種類 | B形 | BF形 | CF形 |
|---|---|---|---|
| 接地漏れ電流 | 5mA / 10mA | 5mA / 10mA | 5mA / 10mA |
| 接触電流 | 100μA / 500μA | 100μA / 500μA | 100μA / 500μA |
| 患者漏れ電流 | 100μA / 500μA | 100μA / 500μA | 10μA / 50μA |
※各欄は「正常時 / 単一故障時」の許容値です。単一故障状態とは、接地線の断線など、部品や配線が1箇所故障した状態を指します。
※IEC 60601-1(第3版)における代表的な値です。接地漏れ電流の許容値は第2版から見直されており、機器の分類や設置条件によっても異なります。
心臓と電気的に接触するCF形では、患者漏れ電流の許容値がB形・BF形の10分の1になります。この差は、電源の絶縁構造だけでなく、機器全体の設計に影響します。
漏れ電流については、漏洩電流とは?でも解説しています。
そのほかの設計上の違い
医療機器用の電源には、絶縁と漏れ電流のほかにも、一般用とは異なる設計が求められます。たとえば、L側とN側の両方にヒューズを搭載する構成(ダブルヒューズ)が用いられます。
EMC(電磁両立性)についても、医用電気機器向けのIEC 60601-1-2に適合する必要があります。医療の現場では、無線機器やほかの医療機器から電磁妨害を受ける可能性があり、それによって計測値が乱れることは患者の安全に直結します。第4版では、電磁妨害に関する要求が第3版から厳しくなりました。
「医療用」と書かれていれば、どれでも使えるわけではありません
ここまで見てきたとおり、医療用電源に求められる保護のレベルは、機器によって変わります。装着部の分類、機器全体としての絶縁の構成、使用される環境、EMCの要求によって、必要な仕様は異なります。
最も厳しい2×MOPPに対応した電源を選べば安心、という単純な話でもありません。保護のレベルを上げれば、絶縁距離を確保するために電源は大きくなり、コストも上がります。逆に、必要な保護が不足していれば、規格に適合しません。
当社のご提案について:当社では、医療用電源のご相談に対して、一律に同じ構成をお勧めすることはしていません。機器の構成や使用される環境をお伺いしたうえで、必要な保護のレベルを満たす製品をご提案しています。必要な水準を見極めることも、電源メーカーの役割だと考えています。
医療用電源の選定でお困りの際は、お気軽にご相談ください。仕様が固まっていない段階でも構いません。営業担当と技術担当が内容を確認し、標準品・セミカスタム・フルカスタムを含めて、実現できる方法をご提案します。